透明なプロローグ

 大学1年の秋に免許を取った。それからしばらくは、ただ運転に慣れるためのドライブをするぐらいだった。今でこそ車オタクと言えるくらいにはなっていると思うけど、免許を取る前は、都内に住んでるんだから車なんて要らないだろう、という風に思っていた。実際、車に関する知識なんて小学生の頃に遊んでいたグランツーリスモで止まっているし、免許を取ってからもさほど車に関心が向くことはなかった。

 それでも、ここまで車好きになったのは、ホンダ・CR-Zとの出会いがきっかけだった。実家の車は、ホンダのストリームというただの何の面白みもない陳腐なミニバンで、乗っていてもなんの感情も湧かなかった。大学2年の春に、学生のうちは月額無料だから、という理由でカーシェアに登録した。最初はなぜだか忘れたけど、プリウスに乗りたかったんだと思う。

 そんなこんなで、CR-Zに乗るのだけど、初めてCR-Zで首都高に上がった日のことは今でも鮮明に覚えている。土曜の深夜はガチ勢がいるから危ない、ということを聞いたので、日曜の早朝に行くことにした。迎えた日曜の朝は、あいにくの雨で、それでも初めて乗るスポーツカー(っぽいやつ)を目の前にして、そこそこ緊張していた。

 走り出してみると、初めて体験する視界の低さに、心が躍った。ちょっとだけ、ちょっとだけ、と言いながら、早朝の誰もいない海岸通りで6000回転までエンジンを回してみたりした。いざ首都高に上がると、この日のために用意していたミリオンライブの曲をカーステレオで流してみる。初めて聴く曲は、家でじっとしていると、どうしても聴く気にならない。いつも聴いている曲ばかり聴いてしまうから、この機会にミリオンの曲を聴いてしまおうと思った。

 その中でも、透明なプロローグが真っ先に気にったのを鮮明に覚えている。早朝の高速道路と、透明なプロローグの曲調が自分の中で凄いハマってしまって、今でもこの曲を聴くと横羽線の光景が頭に浮かんでしまう。もし、ミリオンライブの曲でどれが一番好きかと聞かれれば、トキメキの音符になってを差し置いて、透明なプロローグを挙げてしまうかもしれない。

 結局あの日は、C1~湾岸線~横羽線というルートを2周くらいした気がする。雨が降っていたのは早朝だけで、10時くらいになるとすっかり晴れになってしまった。ちょうど湾岸線を走っている途中で、無性に気分が上がって窓を全開にしてしまった。あのとき流れていた曲は、たしか朝焼けのクレッシェンドだったか。とにもかくにも、初心者マークを貼り付けたCR-Zで首都高を走り回った記憶は、透明なプロローグとともに鮮明に脳裏に焼き付いている。